オリジナルBL小説を、つれづれに書き綴っています。
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えー、久しぶりの風太です。
更新がイレギュラーですいません。
しばらくは、こんな感じでいきますので、お付き合いのほどよろしくです~m(_ _)m


「お、なかなか良い肉だな。これ、高かったんじゃねえか」
「そうでもないですよ・・・いや、まあ、多少は奮発したかな」
「悪りぃな、あとで清算してくれ」
「いいですいいです、こちらが無理やり誘ったんですから」
「無理やりだなんて。可愛い風太君からお誘いを受けるなんて光栄なことだよ」
「かわいい?ふうた?」
「うん、とてもかわいいよ」
「ふをっ♪」

ここは東京郊外の一軒家。
燦々と降り注ぐ日差しの下、バーベキューセットの上に肉や野菜を所狭しと並べているのは恭介だ。
頭に鉢巻を巻いているのは、滴り落ちる汗を止めるためだろう。
肉が焼ける香ばしい臭いに鼻をひくひくさせながら、待ちきれないとばかりにピョンピョン飛び跳ねているのは風太であるが、空腹を我慢できないせいか頭から猫耳が、お尻からは長いもふもふの尻尾がぴょんと飛び出している。

今日は二人だけではない、客人がいるのだ。
見事なブロンドの巻き毛を腰まで垂らし、真夏だというのにシルクの長袖シャツを着ている麗人と、これまた真夏だというのに汗ひとつかかず日焼けもしていない美形の日本人。
ブロンドの美形はルカ、ヴァンパイアだ。
日本人の方は日下大輔、かつては警視庁捜査一課の敏腕刑事として鳴らしたれっきとした人間であるが、ルカのパートナーとなったため自らヴァンパイアとして生きる道を選んだ。
そして、元は猫だった風太。
そう、4人いる中で純粋な人間は、恭介ただ一人だけだ。

グ~~~っと盛大な音が鳴る。
ふと見やると、バツが悪そうに微笑むルカがいた。

「良い音だな」
「だってぇ、なんだかお腹空いてきちゃったんだもん」
「まあ、こんだけいい臭いしてればしかたねえか」
「あともうちょっとで焼けますから、縁側で座ってビールでも飲んでてください。あ、シャンパンもありますよ」
「あんた一人働かせちまって悪いな」
「いえいえ、お気になさらず~」

鼻歌でも聞こえてきそうな勢いの恭介は、バーベキュー係を心底楽しんでいるようだ。
その横でぴょんぴょん飛び跳ねている風太も楽しそうで、日曜日のお父さんと息子という感じだ。
お父さんにしては恭介はちょっと若すぎるが。

「あっちーなぁ」
「あっち?」
「いや、暑いな、って」
「ふうた、あつくないよ」
「そうか?」
「ふうたくんは俺たちと同じでどんな気候も関係なく体温調節できるんだよ」
「そうなんだ・・・」

シャンパングラス片手に涼しい顔をして縁側に座っている美形の西洋人は、ヴァンパイアのルカだ。
ルカは胸元にゴージャスなフリルが付いた真っ白なシャツに、黒いスリム、焦げ茶のロングブーツという、まるでこれから乗馬でもしそうな出で立ちでだ。
その横でぐびぐびと缶ビールを飲んでいる日下もやはり黒いロンTにジーンズという、真夏には相応しくない服装である。
タンクトップに短パン姿にも拘らず汗だくの恭介との対比がすごい。

「なんか、狭いところですいません」
「なに言ってるの、これだけの庭があれば十分だよ」

戸建とはいえ、それほど大きな家ではない。
庭もそこまで広くはないので正直大人が3人もいると結構な圧迫感があるが、ヴァンパイアカップルはまったく気にしていないようだ。
そもそもなぜ2人が恭介の家に来ることになったかというと、ことの発端は今から数時間前にさかのぼる。



「ふをっ」
「風太、大声出すんじゃないぞ。尻尾も出さないように気を付けろよ」
「うん」

ウサ耳帽をかぶった風太の手を引いて、恭介は涼しい店内を練り歩く。
今日は庭でバーベキューをするのだ。
昨日バラエティー番組でタレントが海辺でバーベキューをしているのを見た風太は、自分もやりたいと興奮気味にねだってきた。
バーベキューなら庭でもできるぞと言えば、明日にでもやりたいと言う。
そこで急いでオンラインショップでバーベキューセットをポチったところ、今朝一番で届いた。
これでいつでもバーベキューができる。
あとは食材と飲み物を買うだけということで、こうして買い物にやってきたというわけだ。

バーベキューなんて久しぶりだった。
ウキウキ気分でついちょっと遠出していつもと違う高級なスーパーに来てしまったが、この夏大きな仕事の発注が入っているので懐具合もまあまあだし、たまにはいいかと肉売り場をウロウロしていると・・・

「あっ、ルカちゃん!」

恭介の手を離し、風太が駆けて行く。

「おい、風太!どこ行くんだっ」

風太が向かった先には長身の白人が立っていた。
以前、遊園地で偶然出くわした人物・・・いや、ヴァンパイアだ。

「あ・・・どうも・・・お久しぶりです」
「こんにちは。恭介さんだっけ」
「はい、えっと、ルカさんと・・・」
「日下だ」
「すいません」
「いいんだよ、名前なんていちいち覚えてられないよね?」

ルカの絶妙なフォローに少し安堵する。
ルカはニコニコしていて人当たりがいいが、この日下という人物は元刑事だけあって眼光が鋭く、ちょっととっつきにくい。
思わぬ再会が嬉しいのか、風太はルカの手を取ってピョンピョン跳ねている。
尻尾が出てしまわないか冷や冷やしている恭介をよそに、風太はこれから庭でお肉を焼くのだと嬉しそうに語り出した。

「へぇ・・・バーベキューか。いいね。今日は良い天気だし、楽しいだろうね」
「うんっ。ふうた、はじめてなの。おにく、たべるの。おさかなも」
「そっか、よかったね」
「ルカちゃんもくる?」
「え?」

大きな目が期待で爛々と輝く。
どうやら風太はこの二人をバーベキューに招待したいようだ。
突然のことに戸惑っていると、風太が畳みかけてきた。

「きょうすけ、ルカちゃんもいっしょ、いい?」
「え・・・ああ、そうだな。大勢いたほうが楽しいしな」
「くさかさんも?」
「もちろんだ。でも先にお二人の予定を聞かないと」
「ルカちゃん、くさかさん、うちくる?」
「お邪魔してもいいのかな?」
「うんっ」

ルカのおねだりにノーと言える大人がいるだろうか。
そんなわけで、急きょルカたちがバーベキューに参戦することになったのである。
午前中少し用事があるというので一旦家に帰り、午後から恭介宅に訪れるという約束をして別れた。
風太はウキウキでスキップしそうな勢いだ。

「嬉しいか、風太」
「うんっ。ルカちゃんもくるの、ふうたうれしいっ」
「そうか・・・」

本当は二人きりがよかったな、という言葉を飲み込み、肉を物色する恭介であった。



なんと、今回ルカ&日下カップルが特別ゲストです♪
BBQ編は後編に続きます~\(^0^)/


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[2017/08/12 12:00] | 愛しのプッシーキャット
|

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鍵コメSさまへ
にゃあ
鍵コメSさま

> わーい!ヽ(*´▽)ノ♪
> 大好きな日下さんとルカちゃんだぁぁ!

大好きと言ってくださって、ありがとうございます!
はい、真夏が似合わないヴァンパイアカプの登場でございます(笑)

> こんな4人が一緒にBBQなんて!萌えハゲる!
> もふもふ尻尾触りたい!
> ルカちゃん。代わりに触って!

ルカに伝えました。
以下、返答です。

「え?もふもふ尻尾を代わりに触る?う~ん・・・
猫は尻尾触れるの嫌がるんだよね。
なるだけ嫌がることはしたくないんだけどなぁ・・・
どうしようかなぁ・・・」

とのことですww

コメントありがとうございます。
超亀更新ですが、見捨てずお付き合いくださいませ~m(_ _)m


ふを~~~~っ!!
日高千湖
にゃあさま、バーベキューですよ!!

うわああっ!!

ありがとうございます!!しかも、ルカさま付き。恭介にとっては、お邪魔虫??

風太のおしっぽふりふりしながらの、肉待ちする姿に、萌えます♪

更に「ルカちゃん」呼びーーーっ!「ちゃん」ですよ、「ちゃん」!!

うさ耳帽子も可愛いですね。風太は一生このまま可愛い姿でいて欲しいです。

恭介には申し訳ないけど、もう青年風太は封印って事で!!←おいっ

ふふふっ。やっと時間が出来ましたwwwまた、来ます~♪

Re: ふを~~~~っ!!
にゃあ
日高様~~~いらっしゃいませ♪

> にゃあさま、バーベキューですよ!!
> うわああっ!!

はい、日高様のリクエストにお応えして、お庭でバーベキューです\(^0^)/
恭介は張り切って肉を焼いております。

> ありがとうございます!!しかも、ルカさま付き。恭介にとっては、お邪魔虫??
> 風太のおしっぽふりふりしながらの、肉待ちする姿に、萌えます♪
> 更に「ルカちゃん」呼びーーーっ!「ちゃん」ですよ、「ちゃん」!!

2人だけでもよかったんですが、久しぶりにルカ&日下カプも参加させました(笑)
確かに恭介にとってはちょっとお邪魔虫かもww
だけど風太の望みですから。
風太には弱い恭介です(^m^ )クスッ

> うさ耳帽子も可愛いですね。風太は一生このまま可愛い姿でいて欲しいです。
> 恭介には申し訳ないけど、もう青年風太は封印って事で!!←おいっ

今、ガチャガチャで猫用のウサ耳帽が売ってるんですよ。
うちのリアル風太はちょっとでも体を拘束するものが嫌いなので、
ウサ耳どころか首輪もしてないのですが・・・あれ、可愛いなと思って。
思わず風太をウサ耳にしちゃいました。

> ふふふっ。やっと時間が出来ましたwwwまた、来ます~♪

お忙しそうですね。
無理なさらないでくださいね。
敬ちゃんがその後どうなってるのか、気になっています~(←とかいって催促ww)



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「ナルセ様、いかがなされましたっ?!」
「何でもねえよ」
「ですが今、大きな音が」
「ちょっとそこのテーブルに足が引っかかっただけだ、大したことねえ」
「だったら良いのですが・・・」

不安げに見上げてくるキリエは、テーブルの上に散乱している本に気付くと「ああ」という顔をする。
俺が何をしていたのか悟ったのだろう。

「ナルセ様、何かお飲みになりますか」
「いや、さっき茶を飲んだからいい」
「それらの書を読むには、お時間もかかるかと思います。何か軽食でもお持ちしましょうか」
「いや、それより俺の服と荷物はどこにある?」
「服・・・ですか」
「ああ。この世界に飛ばされてきた時に着ていた服があるはずだ。靴も。それと、チャカもあったはずだ」
「チャカ・・・」
「拳銃だ」
「拳銃とは?」
「この世界には銃がないのか?」
「勉強不足で申し訳ありません。銃とはどのようなものでしょうか」
「おまえたちの世界でも軍隊があるんだろう。さっきの赤毛の兄ちゃんが率いる部隊とか。戦争の時にドンパチやるんだろう?」
「ドンパチ・・・」
「ドンパチってわからねぇか、ああ、めんどくせえな。日本語が通じるんじゃなかったのかよ」
「申し訳ありません。ナルセ様がお話されている概念がこちらの世界にない場合、私どもには意味が理解できないのでございます。ドンパチというのは何を指すのでしょうか」

侍従だからしょうがないとはいえ、一々低姿勢で「申し訳ありません」を連発するキリエに段々と苛ついてくる。
思わず舌打ちしたくなるのをなんとか堪えた。
どこまで噛み砕いて説明しなけりゃいけないのか。
俺はただ、自分の服とチャカを取り戻したいだけなんだよ。

「とりあえず、俺がここに来た時に着ていた服と持ちもん、ぜんぶ持ってきてくれよ」
「かしこまりました。取りに行ってまいりますので、しばらくお待ちくださいませ」

深々と頭を下げるとキリエが部屋を出ていく。
だだっ広い部屋に再び静寂が訪れた。
窓際に行って外を覗きこむ。
眼下に広がるのは鬱蒼と茂った森だ。
まるでヨーロッパのおとぎ話に出てくるような。
その遥か向こうに、集落があるのだろうか。
確か、市街地に出るにはこの森を抜けなきゃならないとかなんとか、執事の爺さんが言っていた気がする。

ここから抜け出すにはどうすればいいのか、無い知恵を懸命に絞る。
こんなところでくたばってたまるか。
竜だかなんだか知らねえが、なんで俺がそんなやつらの相手をしなけりゃならないんだ?
神が遣わしただと?
ふざけんな。

逃げてやる。
この城を抜け出して街まで逃げ切れれば、どうにでもなるだろう。
伊達に極道なんてやってねえ。
どんな手段を使っても生き延びてやる。

「お待たせいたしました!」

息せき切ってキリエが戻ってきた。
俺の服はきちんと畳まれた状態で籠のようなものに入っている。

「こちらでよろしいでしょうか」
「ああ、悪いな」

シャツにズボンにジャケット、靴と靴下もある。
それと・・・

「ああ、あった」

露骨にホッとした俺を見て、キリエが不思議そうな顔をした。

「あの、それが銃と呼ばれるものでしょうか」
「そうだ」
「その鉄の塊は何に使われるのですか」
「やっぱりこの世界には銃はねえんだな」
「はい、初めて拝見します」
「だったら好都合だ」
「え?」
「いや、なんでもねえ」

思わずほくそ笑んだ俺を不思議そうに見つめるキリエをよそに、これからの逃亡劇のシナリオを組み立てる。
ここはどうやら、中世ヨーロッパのような世界らしい。
服装からなんとなくそんな気はしていたが、銃がないということは恐らく弓や剣で戦うに違いない。
だったら楽勝だ。

弾倉をチェックすると、まだ弾が3発残っていた。
歌舞伎町で追われた時に一発撃っている。
4発残っていると思っていたが、どこかでもう一発撃ったのか。
それとも、この世界に飛ばされた時に弾がなくなったのか。

「ナルセ様、どうされました?」
「キリエ、この城内と周辺の地図はあるか」
「はい、ございます。そちらの指南書の中にも書き記されていると思いますが」
「指南書・・・マニュアルってことか」
「マニュ・・・?」
「いや、いい。そうだな、そっちの言葉で書かれた地図を見ても意味ねえからな。わかった。これから指南書と日記を読むから一人にしてくれねえか。用があったらまた呼ぶ」
「かしこまりました」

キリエが控室に戻ったのを見届けると、急いで着替えを済ませる。
この世界に飛ばされる前に着ていた洋服は、全て無傷のまま籠の中に入っていた。
グッチの黒シャツにグレーのジャケット。
ジーンズは十年ほど前に古着屋で見つけたビンテージものだ。
ベルトもビンテージで、大きなバックルと鋲が付いている。
履きこんで足に馴染んだクロケットジョーンズのブーツ。
どれもこれも、全てここに飛ばされる前に身につけていたものだ。

ガンホルダーを装着すると、ジャケットの内ポケットに財布とスマホがあるのを確認する。
予想通り、スマホの電源は落ちていた。
まあ、期待はしていなかったが、やはりここは異世界なのだと思い知らされる。
念のために電源ボタンを長押ししてみたが、うんともすんとも言わない。

「チッ、だめか・・・」

ため息を吐きたくなるのをこらえ、まずは日本語で書かれた指南書とやらを探す。
似たような色合いと装丁の本ばかりで、探すのに手間取る。

「あった、これだ」

筆跡から、一条馨が書いたものと思われる。
パラパラとページを捲ると、城内の説明図が出てきた。
かなり詳しく描かれたそれは、素人(たぶん)が作ったにしてはなかなかよく出来た間取り図だ。
巨大な城の全貌が詳しく説明されている上に、絵も上手い。
一条馨が絵心があって助かった。
この部屋は確か、竜王の部屋と直接繋がっているとエリアスは言っていた。

「竜王の部屋は・・・」

思った通り、竜王の部屋は城の最奥にあった。
ここから外に出ることはほとんど不可能な気がして、一瞬目の前が真っ暗になる。
だが諦めるのはまだ早い。
状況から判断して、自分は竜王族にとっては貴重な存在のはず。
何しろ、子供を産むとか言ってるわけだから、いわば金の卵を産むガチョウといったところなわけで、大切なガチョウを傷付けてはまずいだろう。
ってことは、逃げようとしたところで乱暴な目に合わせられることはまずないということだ。
殺されたり処刑されたりとか、そういうことにはならないはずだ。
だったら、とりあえずこの城の出口を見つけ、強行突破するしかない。

「やるしかねえな」

集中して城内の構造を頭に叩き込む。
学はない俺だが、こういうのは得意中の得意だ。
ものの数分で大まかな間取りを覚えることができた。
とにかく城外に出ることが先決だ。
あとは森を抜けさえすれば町に行きつくだろう。

「あとは野となれ山となれ、ってか」

極道なめんなよ。
テーブルに残っていた茶をひと啜りすると、俺はそうっと部屋の扉を開けた。



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[2017/08/05 12:00] | 若頭なのに異世界トリップしちゃいました
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「これは・・・」
「先々代の竜王の番となられた、イチジョウカヲル様の手記でございます。イチジョウカヲル様がこちらの世界に来られたのは、まだ16歳の時だったということです。確か、元の世界、つまり日本ですが、そちらでは高貴な一族であられたようで、大切な跡取り息子だったためしばらくは大変な取り乱し様だったと記録されております。けれども時間と共にこちらでの生活にも慣れ、三人のお子様をお産みになりました。詳しいことは、殿下の手記を直接お読みになられるとよいかと」
「本当に・・・俺のほかにも日本人がここに・・・」
「はい。先ほどもご説明しましたように、この世界に召される方はみな、黒髪、黒い瞳、そして小麦色の肌の少年たちばかりです。中には少年というよりは青年といったほうがよい方もおられたようですが。また、多少浅黒い肌の方もいらっしゃったようです」

他の本を手に取って中を見てみると、中国語のほかにアラビア語のような文字もある。
どこの言葉かはわからないが、アルファベットでないところを見るとおそらく東南アジアあたりの文字ではないだろうか。
ハングルもある。
つまり、ここに飛ばされるやつらはみな、アジア人ということか。
浅黒い肌ってのは、アラブかインドあたりかもしれない。

「歴代の竜王と王妃の肖像もございます。西の塔に行かなくてはなりませんが」
「肖像・・・」
「イチジョウカヲル様のもございますよ。大層お美しい方だったというお話です。肖像画を拝見しますと、ため息が出るような美少年でございますね。他にも当時のお衣裳などもきちんと保存しておりますので、いずれ陛下とご一緒にご覧いただけるでしょう」
「本当に・・・本当なんだな」
「はい?」
「本当にここは俺の住んでいた世界じゃねえんだな」
「ナルセ様・・・」

初老の執事が憐憫に満ちた目をしている。
それほどまでに俺は、憔悴した顔をしているのだろう。

「一人にしてくれ」
「ナルセ様」
「この一条なんちゃらさんとやらの日記を読んでみる」
「さようでございますか」
「先のことは、その後でまた考える」
「かしこまりました。もしもご用がありましたら何なりとお申し付けください。別室にキリエが控えておりますので」
「わかった」
「では、わたくしはこれにて」

ギルベルトが出ていくと再び部屋はしんと静まり返った。
目の前のローテーブルに置かれた一条なんとかの日記を手に取る。
千年以上も前の物にしては、保存状態がいい。
紙の質も、日頃日本で見るのとそう変わらないように思える。

表紙をめくると、「一条馨、ココニ シタタメリ」と漢字とカナ交じりの文章で書かれている。
そして次のページを見て、俺は愕然とした。

「明治二十五年、七月某日」

明治時代の人間がここに飛ばされてきたということか。
確か江戸幕府が終わったのは1860年か70年か、そのあたりだったはずだ。
明治25年ってことはつまり1890年前後ってことだから、この一条馨は今から120年以上前の人間ということになる。

ページを繰る手が震える。
これ以上読むと、もう取り返しがつかなくなるような予感がするからだ。
だが、読まずにはいられなかった。
自分と同じ境遇にあった日本人の日記を、スルーすることなどできない。


『何ユエ私ガ此ノヨウナ目二 合ワナクテハ ナラヌノダロウカ。母上サマ、イカニオワシマスカ。私ガ急二居ナクナリ家ノモノタチハミナ 大騒ギシテイルノデハアリマセヌカ。母上サマ、オ会イシトウゴザイマス』

『父上、母上、姉上、婆ヤ、姉ヤ、忠敬、私ハ異世界二飛バサレテシマイマシタ。此レガ夢デアレバト何度思ッタコトデセウカ』


文体が古いのと、漢字とカタカナ交じりの文章のせいで読むのに苦労したが、読み進めていくうちにだんだん慣れてきた。
どうやら一条馨というのは、華族の跡取りだったようだ。
徳川の時代が終わり当時の藩主たちは武士の身分を失った代わりに、華族として新たな身分が与えられた。
この一条家もそのうちの一つだろう。

『この世界に飛ばされてから、三日が経った。ベルゲンシュタインという西洋の国のような名前、人はみな異人のような姿で東洋人は私しかおらぬ。異人の年齢はよくわからないが、国王のマリウスはまだ若く私とそう変わらないように見える。なぜかみな日本語を話し、意思の疎通に困ることはない。最初はただただ恐ろしかったが、マリウスも召使たちもみな親切で安堵する』

どうやらこの時代の竜王の名はマリウスというらしい。
そしてやはり、竜王は若いのか。
この時代の日本人で16と言ったら、元服も済んでいて一人前の男と見なされていたのかもしれない。
華族の跡取りともなれば、特別な教育を受けていただろう。
だからだろうか、文章が堅く現代人の自分からするとまるで、年寄りが書いた文章でも読んでいる気分だ。

「・・・・・・!」

なんとなく読み飛ばしていたら、ある文字が目に入ってきて絶句する。
そこには、寿命のことが書かれていた。
そして、番のことも。

『竜王族は個体差はあれど五百年以上生きるなり。生まれて五十年ほどで成体となり、その後はほとんど姿かたちに変化が表れぬ。有り体に言うと年を取らぬということである。そして、成体となる頃にツガイと呼ばれる黒髪黒目の少年が神から遣わされる。それがこの私だというのだ』

『耳を疑う話をされた。竜の子を産むだと。この私に竜の慰み者になれというのか。全くもって馬鹿げている。由緒正しき公爵家である一条の嫡男として、それは到底受け入れられぬ。第一、私は男色家ではない。父が若かった頃はまだ衆道が男子のたしなみであったと聞くが、武士の時代はもう終わったというのに。』

500年以上生きる・・・そんなことがあるのか。
いや、そもそもこいつらは人間じゃないから人間と同じ尺度で考えてはダメなのか。
竜ってのは伝説上の生物だろう。
そんなものが存在する世界で、人間である俺はどうすりゃいいんだ。

ため息しか出てこない。
日記を読めば少しは救われるかと思ったが、逆に絶望的な気分になってくる。
それにしても、1200年も前の話だというのに、一条馨は明治の人間というのが腑に落ちない。
こちら側の世界とあちら側の世界では、時間の流れが違うということなのか。
考えれば考えるほど混乱してくる。

イライラしてついテーブルを蹴とばしたところ、思いもかけずガシャンと大きな音がして自分でも驚く。
するとキリエが血相変えて飛んできた。

「ナルセ様、いかがなさいましたっ!」
「あ、いや・・・何でもねぇ・・・」

やはり俺は監視されているらしい。




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[2017/07/26 12:00] | 若頭なのに異世界トリップしちゃいました
|

ふを~~~っ!!
日高千湖
ふを~~~っ!!

馨さまは明治の方だったんですね。1200年と120年。そこにヒントがあるんでしょうかね?

この世界と時間の流れが全く違うようですね。王妃も寿命が延びるのかしら?

前回は美少年、今回は中年のおっさん。なので、ちょっとは長くなってもらわないとね!

テルマ姉さんも笑っちゃいますよ~♪おーほほほっ

日記が読めてよかった~日高は心配しておりましたよ(笑)ナルセの思考回路もそろそろ整理されたでしょうかね?まだか・・・。

風太くんは元気でしょうか?今頃、花火大会の計画でしょうか?それともキャンプかしら?




Re: ふを~~~っ!!
にゃあ
日高様~~~

いらっしゃいませ♪

> 馨さまは明治の方だったんですね。1200年と120年。そこにヒントがあるんでしょうかね?
> この世界と時間の流れが全く違うようですね。王妃も寿命が延びるのかしら?

そうなんです。
明治の華族様です(笑)
紅顔の美少年だったようですね~(●´艸`)
時間の流れが違うんでしょうかね、どうなんでしょう?(おいっ)

> 前回は美少年、今回は中年のおっさん。なので、ちょっとは長くなってもらわないとね!
> テルマ姉さんも笑っちゃいますよ~♪おーほほほっ

中年のおっさんww
成瀬が聞いたら怒りそう(≧∇≦)
でも本当のことですもんね~
美少年じゃなかった、残念!!みたいなww

> 日記が読めてよかった~日高は心配しておりましたよ(笑)
> ナルセの思考回路もそろそろ整理されたでしょうかね?まだか・・・。

どうでしょう。
そうそう簡単には整理できないかもしれませんね、なにせヤーさんですからね(笑)
血の気が多いですからね~(^ ^;)

> 風太くんは元気でしょうか?今頃、花火大会の計画でしょうか?それともキャンプかしら?

風太は連日の暑さにちょっとへばっています。
でも夏は大好きな季節なので(冬も好きですが)、何かしらアクティブなことを
やりたがっていますね~
キャンプもいいですね!BBQとか。

「ばべきゅ~!おにくすき~~~ふを~~~っっ」

と、申しております(=^・^=)


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「とりあえず、しばらく一人にしてくれねぇか」

重苦しい空気の中、そう言うのが精いっぱいだった。
いきなり竜王族だの、子供がどうのだのと言われても「はいそうですか」などと言えるはずがない。
一人になって冷静に考えたかった。
ダメだと言われたら力づくでもこの場から逃げてやろうと思ったが、深々と頭を下げていたギルベルトが軽くため息を吐きながらこちらを見上げてきた。

「わかりました。陛下はこの後まだ執務が残っております。執務室のほうにお戻りください。オーランド殿も任務がございましょう。キリエはこのまま控室にて待機するように」
「かしこまりました」
「わたくしはこれから神官長のところに参って、竜王の妃のための指南書を持ってまいります。それと、前竜王妃の日記も。それをご覧いただけば、この王国の歴史や風俗などがおわかりいただけるかと思います」
「ギルベルト、執務は急を要するものじゃないから僕はこのままここにいる。ここでナルセのそばにいるよ」
「陛下、ナルセ様はお一人になりたいと仰っております」
「でも・・・」
「陛下、ここはナルセ様のお気持ちを汲んでさしあげましょう。どうせ夕食時にはまたご一緒されるのですから」

穏やかではあるが、同時にどこか威圧的な物言いは若き国王を黙らせるに十分だった。
しぶしぶという感じではあるが、エリアスはこの場を立ち去ることに同意したらしい。
長いプラチナの髪を揺らし、何度もこちらを振り返りながら部屋を出ていく。
その後を、オーランドが付いていく。
キリエはこのだだっ広い部屋の隅にあるドアから出て行ったが、恐らくそこが侍従の控室なのだろう。
何かあれば飛んでくるつもりに違いない。
最後に、「それでは必要な物を取ってまいりますのでしばしお待ちを」と言い置いて、ギルベルトが出ていくとついに部屋には誰もいなくなった。

「ふぅ・・・」

思わず深いため息が漏れる。
一人になると、広い部屋がさらに広く感じられる。
いったい何畳くらいあるのだろう。
春日組組長の屋敷も相当広いが、あちらは古い日本家屋だしもっと地味だ。
これほどまでに贅を尽くした部屋は、生まれて初めて見る。

「まいったな・・・」

これからどうすればいいのか。
ここで竜王とやらの妃として暮らすなんて、まっぴらごめんだ。
なんとかして元の世界に戻る手立てはないのか。
なんで俺がこんな目に合わなきゃならねえんだ・・・

大声を出して暴れてやろうか。
ムカつくほど上等そうなこのソファーも、部屋のそこここに置かれた度デカいツボも、天井高く吊るされたシャンデリアも、何もかもが神経にさわる。
この何から何まで高そうな調度品を全部、破壊して回ってやりたい気分になった頃、軽いノック音がした。
答えるのも面倒で無視したが、ドアはそのまま開けられギルベルトが抱えきれないほどの本を持って入ってきた。

「こちらが、竜王妃のための指南書と歴代王妃の日記です。新しい環境に少しでも馴染んでいただくためにも、よく目を通してください」
「そんなもん読んで何になる」

つい口調がキツくなってしまったが、初老の執事は特に気にする風でもなく続ける。

「あなたはいきなり異世界からやって来られた。まあ、あなたからすればこちらの世界のほうが異世界なわけですが」
「ふん」
「急な環境の変化に気持ちがついていかないのはわたくしどもも理解しております。しかしナルセ様。あなたは選ばれてしまった」
「勝手なこと言ってんじゃねえよ。誰も選んでくれなんて言ってねえ」
「選んだのはわたくしどもではありません。神がすべてお決めになったことです」
「あいにく、俺は無神論者なんでね」
「とにかく、あなたのお気持ちがどうであれ、泣いても喚いてもあなたはここで生きていくしか道はないのです」
「なんだと?」
「お嫌なら、この城を出られますか?城を出てどうやって生活されるおつもりですか?ここから市街地に出るには森を抜けなくてはなりません。森の中にはウォルバリンやグリフィンといった野獣がおります。あなたのような人が丸腰で歩いていたら、それこそ一瞬で餌食になってしまうでしょう」
「野獣・・・」
「ここは、あなたがいた世界とは違うのです」

ギルベルトは持ってきた本の1冊を手に取ると、ページを繰った。

「この世界に来た歴代の妃たちはみな、言葉に不自由することはありませんでした。私が話している言葉はベルグ語と呼ばれるものでこのベルゲンシュタイン王国の標準語ですが、あなたの耳にはあなたのお国の言葉として聞こえているはずです」
「ベルグ語・・・」

そう言えば、こいつらみんな西洋人の見た目なのに達者な日本語を話していると思っていたが、実際は別の言葉を話してるってことなのか。
それが俺に耳には日本語として聞こているということなのか。
だが、俺が話している言葉はこいつらになぜ通じる?
俺はそのベルグ語とやらを一言も知らないというのに?

「あなたの口から発せられる言葉は、我々にはベルグ語として響いています」

こちらの疑問が顔に出ていたのか、ギルベルトが説明を続ける。

「これは、異世界からいらした過去の番の方たち全員に共通することでした。みなさん、言葉に困ることはなかったのです。お互いすぐに意思の疎通ができた。けれども、読み書きは別です。文字だけはベルグ語はベルグ語の文字としてしか、認識できないようなのです。そこで、この指南書を作成するにあたり、過去の妃たちの協力を得て数か国語で記してあります」
「数か国語・・・」
「まずはこちら。これは中国語と呼ばれる言葉です」
「あっ・・・」

信じられなかった。
ギルベルトが差し出した本には、確かに漢字が書かれていた。
過去に、中国からこの世界に飛ばされてきた奴がいるということか。
漢数字で「一、二、三」とある。
中国語なんてさっぱりわからないが、漢字を見ただけでなんだかホッとしている自分がいる。

「俺は中国人じゃねえ」
「そうですか。それではこちらはどうですか」
「これはっ・・・」

思わずギルベルトから本を奪い取る。
そこに書かれていたのは、間違いなく日本語だった。

「あなたは日本人なのですね」
「・・・・・・・・」
「過去に、日本からやってきた少年がいました。私の7代か8代前の執事がお仕えしていた時代ですので、今から・・・そうですね、約1200年ほど前になりますか」
「1200年・・・」
「その日本人の妃の日記もございます。こちらに置いていきますので、夕食までの間に目を通してみてください。何かご質問などありましたら、わたくしかキリエをお呼びください。この鈴を鳴らしていただければキリエが参りますので」
「ちょっと待ってくれ、今、1200年って言ったか?」
「はい、申しました」
「ってことは、その日本人は1200年前の日本からやって来たってことか?」
「いいえ、そうではありません」

頭の中が混乱する。
ページを捲ると、漢字とカタカナの混じった文章が続いている。
だが、どう見ても現代の日本人が書いたものとは思えない。

背中から嫌な汗が滴り落ちるのを感じながら、俺はまるで真っ暗闇に突き落とされたような気分になっていた。



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[2017/07/22 12:00] | 若頭なのに異世界トリップしちゃいました
|

ふを~~~!!
日高千湖
1200年前?

平安時代ですよね?それは解読出来ないんじゃないの?とりあえず、日高が放置してる古語辞典を進呈します。えっ?要らない?

一般人には到底無理っ!!って事ですよ。

ナルセはどうするんでしょうね?全くアシストにはならない王妃たちの日記www


こうなったら、自分の足で情報を掴むしかないっ!探険だっ!ってならないように~♪



Re: ふを~~~!!
にゃあ
日高さま、ふを~~~~~!!!

> 1200年前?
> 平安時代ですよね?それは解読出来ないんじゃないの?
> とりあえず、日高が放置してる古語辞典を進呈します。えっ?要らない?

腐、腐、腐、それがですねぇ・・・
まあ、どうなるかは読んでのお楽しみ(●´艸`)

> 一般人には到底無理っ!!って事ですよ。
> ナルセはどうするんでしょうね?全くアシストにはならない王妃たちの日記www

成瀬、どうするでしょうか。
普通の人間ではないですからね、極道ですから。
しかも若頭、その辺のチンピラではありません。
こんなことで泣き寝入りするタイプではないかも・・・?

> こうなったら、自分の足で情報を掴むしかないっ!探険だっ!ってならないように~♪

おっほっほ。
さ~て、それはどうでしょう~(≧∇≦)

いきなり異世界に飛ばされて、さすがの彼もちょっと意気消沈しておりますが。
きっとすぐ復活するでしょう。

亀更新ですが、最後までお付き合いくださいませ~m(_ _)m


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「あ~めあ~め ふ~れふ~れ か~あさんがぁ~ にゃ~ろめ~で お~むか~え う~れし~いな~♪」
「にゃろめじゃなくて、蛇の目だ」
「ふを?」
「だから、にゃろめじゃなくて“蛇の目”。蛇の目でお迎え嬉しいな、だ」
「じゃろめ?」
「じゃのめ」
「にゃろめ・・・」

唇を尖らせながら小首をかしげる風太は、悶絶するような愛らしさだ。
恭介が買ってやった子供用の真っ赤な傘を差し、真っ赤なレインブーツを履いた風太は、器用に水たまりを避けながらジャンプしている。
猫は水を嫌うものだとばかり思っていたら、そうでもないらしい。
雨が降っていてもお構いなしに庭に出るものだから、濡れてびしょびしょになったこともある。
何がそんなに嬉しいのかわからないが、風太は雨が大好きなのだ。

今もこうして、恭介の手を引きながら外に出てはしゃいでいる。
最近の風太のお気に入りは、童謡「あめふり」を歌いながら雨の中を散歩することだ。
もちろん、差しているのは普通のビニール傘で、蛇の目傘ではない。
っていうか、今の時代に蛇の目傘なんてお目にかかることは、まずないだろう。
恭介だってリアルに見たことがあるかどうかは微妙だ。
昔テレビで見た時代劇に出てきただけのような気もする。

「風太、蛇の目っていうのは、傘のことなんだよ」
「かさ?」
「そう、こうして雨の日に差す傘」
「これがにゃろめ?」
「蛇の目、な。いや、正確に言うとこれは蛇の目じゃないんだけどな」
「かさじゃないの?」
「傘だけど、蛇の目じゃないんだ」
「うう~~~わかんない~~~」
「ははっ、まあとにかく、雨が降ってきたなぁ、どうしようかなぁと思ったら、お母さんが迎えに来てくれて嬉しい、っていう歌なんだお」
「おかあさん・・・」

風太の大きな瞳が揺れる。
何やら考え事をしているようだ。
ひょっとして、母親の記憶でも辿っているのだろうか。
そういえば、風太の口から親兄弟の話を聞いたことはない。
生後2か月くらいの時に道端に捨てられていた風太。
てっきり赤ん坊の頃の記憶などないだろうと思い込んでいた。

「風太・・・?」
「ふうたのおかあさん、いないの」
「風太、なにか思い出したのか?母親の・・・おかあさんのことを覚えてるのか?」
「ん・・・」

風太の表情が曇る。
余計なこと聞かなければよかったと、恭介は少し後悔した。
風太は捨てられていたのだ。
捨てたのはもちろん親ではなく、親の飼い主だったわけだが。
明らかに洋猫、それも長毛種の風太が元から野良であったはずはない。
ちゃんと飼い主はいたはずだ。
これはあくまで想像でしかないが、母猫が出産してその子猫を間引こうとした飼い主が、段ボールに入れて道端に捨てたのではないか。
風太の他にも何匹か子猫がいたかもしれない。
いずれにせよ、あんなに小さかった風太を捨てた人間が、恭介には許せない。

「風太、おまえはうちの子だろ」
「ふを?」
「風太は神様が俺の元に遣わしてくれたんだよ。だからこうして、人間の姿にもなれたんだろ」
「かみさま・・・ふうた、おねがいしたよ。きょうすけとおはなしがしたいって」
「だろ?だからおまえは俺の家の子なんだよ」
「じゃあ、きょうすけがおとうさん?」
「うっ」

お父さんと呼ばれることには、なぜだかもの凄い抵抗があった。
それがなぜかはわからないが。
そんな恭介の心中など知らずしてか、風太は思い出したように続ける。

「おかあさん、ふうたのそばにいたの。とてもやさしかったの」
「母親のことを覚えてるのか」
「おかあさん、いいこね~って。ふうたのこと、かわいいね~って」
「そうか」

風太の中にまだ母親の記憶があったことに、正直複雑な感情が擡げてくる。
知らない方がいいのかもしれないと思いつつも、知りたいという好奇心に勝てない。

「その・・・風太のお母さんは人間の家にいたのか?」
「うん?」
「マンションとか、今俺たちが住んでるみたいな一軒家とか、そういうところに人と一緒に住んでたのか?」
「んっとね、おかあさんと・・・ほかに、おとなのねこがいたよ。あと、ふうたみたいなちっちゃいこもいた」
「結構大所帯だったんだな」
「おおきなおへやみたいなとこにいたの。でも、ふうただけよそにつれてかれちゃったの。そしたら・・・」

風太の目がみるみる涙で溢れてくる。
悲しい記憶がよみがえってきたのだろう。
やはり、聞かない方がよかったのだ。

「泣くな、風太!俺がいるだろう!」

小さな体をギュッと抱きしめる。
赤い傘が足元に転がり落ちてちょうど水たまりに跳ね返ったせいで、泥水がジーンズの裾に飛ぶのがわかったが、そんなことはどうでもよかった。
小ぬか雨が肩に、腕に降りかかる。
風太の柔らかな金色の髪も濡れている。

「ごめん、風太、悪かった。辛いこと思い出させちまったな」
「ふえっ・・・」
「大丈夫だ、風太には俺がいる。俺がこうしてずっとそばにいるからな」
「きょうすけ・・・ひっく・・・いっしょ・・・?ずっと・・・ずっとふうたといっしょ?」
「ああ、ずっと一緒だ」
「ふえっ・・・ううっ・・・」
「俺がおまえのお母さん、いや、お父さんになってやる。だから泣くな、な?」
「ふうた、こわかったの。おかあさんからはなされて、ひとりでどっかつれてかれて・・・だれもいなくって・・・さみしかった・・・」
「ああ、怖かったな。辛かったな。だけどよく頑張った。偉いぞ、風太」
「うう~~~」

頭をぐりぐりと胸に押しつけて泣く風太が愛おしい。
まだ生まれて間もない時に母猫から離され、捨てられた風太。
捨てた奴はもちろん許しがたいが、だがそのおかげでこうして出会えたとも言える。
恭介と出会わなかったら、風太は一生普通の猫で終わっていたかもしれない。
こんな風にヒトの姿になるなんてことは、なかったかもしれない。
母猫のそばで他の兄弟と一緒に暮らし、普通の猫として一生を終える方が幸せだったのか。
それとも・・・

「きょうすけ・・・ずっといっしょ・・・」

泣き腫らした目で見上げてくる風太の額に、そっと自分の額を重ねる。
体温の高い風太のおでこは、やっぱり温かかった。

そう、ずっと一緒なのだ。
風太は恭介にとって、もはやなくてはならない存在だ。
こうして出会ったのは運命なのだと、風太が、どこかに存在する神様が自分を選んでくれたのだと思いたい。

「そろそろ帰ろうか」
「かえる?」
「ああ。アイス食べるだろ?」
「食べるっ」
「風太の好きなクッキーチョコのアイスがあるぞ」
「ふをっ!」

風太を抱いたまま、傘を差して家路に向かう。
梅雨は始まったばかり。
だが、曇天とはうらはらに、恭介の心は明るく澄み渡っていたのだった・



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[2017/06/28 12:00] | 愛しのプッシーキャット
|

にゃろめ♪
日高千湖
にゃろめ♪じゃろめ♪

うーん、どっちも可愛いんですけど!!

風太の過去(生まれた頃?)が出てきましたね。雨にはいい思いではないようですが、なにか理由があって、風太だけが出されちゃったんですね(涙)

お母さんが何なのかもわかってない状態の子猫ちゃんでしたね。でも、恭介と出会って、新しいお母さんが出来たし!(笑)

ちょっとがっかりな恭介ですが、ラブ展開になるんでしょうか?まだまだ、かな?ふふふっ

でも、風太の可愛いが溢れてるのでそうならなくてもOKですね!!

今回は恭介のチョイ残念な感じが、お疲れさんでした(笑)

Re: にゃろめ♪
にゃあ
日高様~~~いらっしゃいませ!

> にゃろめ♪じゃろめ♪
> うーん、どっちも可愛いんですけど!!

ふふふ。
可愛いでしょう?
うふふふふ(●´艸`)

> 風太の過去(生まれた頃?)が出てきましたね。
> 雨にはいい思いではないようですが、なにか理由があって、風太だけが出されちゃったんですね(涙)
> お母さんが何なのかもわかってない状態の子猫ちゃんでしたね。でも、恭介と出会って、新しいお母さんが出来たし!(笑)

はい、風太は純血種なので、明らかにどこかから捨てられちゃったんでしょうね。
小さい子猫の時に母猫や兄弟から離されて・・・
不幸な運命をたどるところを、神様に救われ恭介と引きあわされました!
風太にとって恭介は親がわり?

> ちょっとがっかりな恭介ですが、ラブ展開になるんでしょうか?まだまだ、かな?ふふふっ
> でも、風太の可愛いが溢れてるのでそうならなくてもOKですね!!

ですね~
ラブな展開になるのかどうか・・・
なんとなくこのままでもほんわかしてていいんじゃない?なんて思ったり。
迷うところです(笑)

> 今回は恭介のチョイ残念な感じが、お疲れさんでした(笑)

恭介、いっつもお疲れさんばかり(笑)
なんだかちょっと可哀相かも・・・って、私のせいか(^m^ )クスッ

忙しいところコメントありがとうございます。
相変わらずの亀更新ですが、ぼちぼちいきます~(^O^)


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